修士論文要旨


氏名

許 太玲

修了年度

2008年度(2009年1月提出)

修士論文題目

中国朝鮮族エスニックアイデンティティの形成要因について
−中国東北部の大学生を中心に−

要旨

(300字以内)

 本研究では、中国東北部の朝鮮族大学生に焦点をあて、彼らのエスニックアイデンティティ構造とその形成要因について明らかにすることを目的とした。その結果、エスニックアイデンティティの因子として認知、行動面においては「拡散型ネガティブアイデンティティ」、「二文化的アイデンティティ」、「拡散型ポジティブアイデンティティ」、「中国人ティアイデンティティ」、「朝鮮族的アイデンティティ」の5つの因子が見出されたが、情動面においては「二文化的アイデンティティ」は見られなかった。また、「朝鮮族的アイデンティティ」の形成要因として「母語接触」と「親の母文化意識」の2要因が認知、行動、情動面で共通の要因として見られた。

要旨

(1000字以内)

 今までの中国朝鮮族に関する研究は、韓国国内にいる中国朝鮮族を対象にした研究や(ユ,1997;金,2005)、日本にいる中国朝鮮族を対象にした研究(金,2004)、及び、本研究と同じく中国国内の朝鮮族を対象とした研究(劉,2001;金,2005)などいくつか見られる。しかしながら、いずれにしても、中国朝鮮族のエスニックアイデンティティの全体的構造を示したとは考えにくく、更なる検討が必要とされるとみられる。また、その規定要因についても、新たなアイデンティティ構造から詳しく検討し、考察を行う必要があると思われる。そこで、本研究では集住地区の出身者と散住地区の出身者のすべてを含み、中国東北部の朝鮮族の大学生を対象に、中国朝鮮族の文化変容度合いを大学生の中から見て行くことと、それらの規定要因を明らかにすることを目的とした。具体的な研究課題は、課題1、中国朝鮮族大学生のエスニックアイデンティティはどのようなものか、課題2、中国朝鮮族大学生のエスニックアイデンティティの形成要因はどのようなものなのか、課題3、中国朝鮮族のエスニックアイデンティティと形成要因との関連はどのようなものなのか、である。これらを明らかにするために、中国東北部の朝鮮族大学生247名に対して質問紙調査を行い、分析を試みた。
 その結果、課題1において、認知、行動面においては「拡散型ネガティブアイデンティティ」、「二文化的アイデンティティ」、「拡散型ポジティブアイデンティティ」、「中国人ティアイデンティティ」、「朝鮮族的アイデンティティ」の5つの因子が見出されたが、情動面においては「二文化的アイデンティティ」は見られなかった。つまり、「二文化的アイデンティティ」は認知、行動レベルにしか存在しないことが明らかになった。課題2においては、「学校での母語接触」、「友人」、「民族文化の習得」の3因子からなる学校要因と、「親の母文化意識」、「家庭での母語接触」、「民族儀礼の接触」、「居住環境」、「マスメディア」の5因子からなる家庭要因であることが明らかになった。課題3においては、結果の特徴的部分として、「朝鮮族的アイデンティティ」の形成にかかわる要因の「母語接触」と「親の母文化意識」の2要因が認知、行動、情動面で共通の要因として見られた。

最終更新日 2008年3月○日