修士論文要旨


氏名

韓 燕

修了年度

2008年度(2009年1月提出)

修士論文題目

子どもの母語を生かした学習教室における支援者の子どもに対する関わり方の変化
−中国語母語話者に注目した支援記録からの分析−

要旨

(300字以内)

 本研究は、「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づいた学習支援活動を取り上げ、活動に参加した中国語母語話者1名の子ども(支援開始当時は来日3ヶ月、小学校5年編入)に対する関わり方の変化に注目し、その変化を促した要因を明らかにすることを目的とする。支援者自身によって二年間わたり記述された支援記録を考察した結果、その関わり方の変化が大きく分けて三つの段階:「上から教えてあげる教師」態勢 →「そばで伴に学びあう仲間」態勢 →「子ども・日本人母語話者・自分という三位一体」態勢が示していると明らかにした。関わり方を変化させた要因としては、支援者が常に「自分自身への批判的内省意識」を持つことと、「子どもの力を肯定的に評価」すること、そして適切な「パートナーシップ」が得られたことが挙げられる。

要旨

(1000字以内)

 近年、日本の公立の小中学校には、日本語以外の言語を母語とする言語少数派の子どもの数が、大きく増加してきている。これらの子どもは、ある程度の日本語力を身につけることができるが、学級での教科学習に参加できない一方、母語力が急速に低下し、アイデンティティの安定や、親とのコミュニケーションにも問題が生じていることが少なくない。それは、子どもの年齢に応じた認知力・思考力・自己表現力などの発達の機会を奪うことにつながる。
 先行研究においては、在籍学級の教科学習を軸にして、母語と日本語の二言語能力の育成を目指す「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づく学習支援を受けることが、言語少数派の子どもたちの認知面、情意面、言語面の発達や安定に良い影響を与えることが確認された。また、学習支援での「探索的な母語支援」によって、母語話者支援者の母語に対する意識が懐疑的から肯定的に変わったと報告された。筆者は、支援者が子どもに対してどのような関わり方を示すかが子どもの学習意欲且つ学習効果に重要な意味を持つと考える。本研究は、「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づく教科学習支援活動を取り上げ、活動に参加した中国語母語話者が子どもとの関わり方の変化に注目し、その変化を促した要因を明らかにすることを目的とする。分析資料として、中国語母語話者1名が二年間にわたって記録した内省的支援記録を用いた。筆者の関心に照らして、記録から支援者の愛ちゃん(仮名)(支援開始当時は来日3ヶ月、小学校5年編入)に対する関わり方と関連ある記述を抽出し、具体的な事例を取り上げ、ケーススタディの研究方法による考察をした。
 中国語母語話者支援者の子どもに対する関わり方の変化について大きく分けて三つの段階:「上から教えてあげる教師」態勢→「そばで伴に学びあう仲間」態勢→「子ども・日本人母語話者・自分という三位一体」態勢が示したと明らかになった。さらに、その関わり方を変化させた要因は、支援者が常に「自分自身への批判的内省意識」を持つことと、「子どもの力を肯定的に評価」すること、適切な「パートナーシップ」が得られたことである。母語話者支援者が示した信頼かつ平等な関わり態勢で、子どもの本来持っている力を最大限に引き出すことが可能となり、子どもは支援教室の活動を「主体的」に参加するようになった。さらに、三者の関係性は「共同体」的なものであると明らかになった。

最終更新日 2008年3月○日