修士論文要旨


氏名

柏 宣宇

修了年度

2008年度(2009年1月提出)

修士論文題目

日本語教育におけるシャドーイングのリスニング力伸長への効果
−ワーキングメモリの変化から見て−

要旨

(300字以内)

 本研究は日本語教育におけるリスニング指導法としてのシャドーイングの有効性を検証し、その有効性の背景を探ることを目的とした。対象者は中国の大学で日本語を専攻としている2年生の二つのクラスであり、それぞれにシャドーイング指導と音読指導を行った。指導を行う前と指導を行った後にリスニングテスト、構音速度テスト、デジットスパンテスト、リーディングスパンテストを実施し、指導群間の得点の比較と指導前後の得点の比較をした。結果、シャドーイング指導群は音読指導群と比べ、構音リハーサルに効果が現れ構音速度が速くなったが、音韻ストアの容量とワーキングメモリの容量が変わらず、リスニング力の伸長も見られなかった。

要旨

(1000字以内)

 シャドーイングは英語教育において、リスニング指導法としての効果が検証され、語学教育にも応用されつつありながら、なぜ有効であるかについては未だに明らかにされていない。それに対して、日本語教育においては、シャドーイングがリスニング力の伸長に有効であるかどうかについてもほとんど検証されていない。そこで、本研究は日本語教育におけるリスニング指導法としてのシャドーイングの有効性を検証し、さらにその有効性の裏付けを探ることを目的とした。
 研究課題は大きく2つに分かれる。研究課題1シャドーイング指導によって日本語のリスニング力に変化がもたらされるのか。研究課題2シャドーイング指導によって日本語でのワーキングメモリの音韻ループに変化がもたらされるのか。また、研究課題2はさらに3つに分かれる。研究課題2−1構音リハーサルには変化が見られるのか。研究課題2−2音韻ストアの容量には変化が見られるのか。研究課題2−3ワーキングメモリの容量には変化が見られるのか。対象者は中国の大学で日本語を専攻としている2年生である。実験を実施する際、対象者をシャドーイング指導群と音読指導群に分け、それぞれ3週間にわたった4回の指導を行った。
 研究課題1に関しては、シャドーイング指導群は音読指導群と比べてすぐれた効果が見られなかったが、日本語のリスニング力においては指導後が指導前より伸びたことが分かった。研究課題2-1に関しては、シャドーイング指導は構音速度の改善により効果があり、構音リハーサルに変化をもたらすことができることが示された。研究課題2-2に関しては、シャドーイング指導群はわずかでありながら、デジットスパンの容量が増えたことから、シャドーイング指導が音韻ストア容量の増大に貢献する可能性が示唆された。研究課題2−3に関しては、指導前後のワーキングメモリの容量がほとんど変わらなかった。つまり、シャドーイング指導のワーキングメモリ容量の増大への効果が認められなかった。
 これらの結果から、日本語教育においてもシャドーイングがリスニング指導法として効 果を発揮する可能性があることが示唆されたが、今後、指導期間を延ばし、対象者を増やすなどで検証を重ねる必要があると考える。

最終更新日 2008年3月○日