修士論文要旨


氏名

張 鉄英

修了年度

2008年度(2009年1月提出)

修士論文題目

中国語母語話者と日本語母語話者の目上の人に対するほめの談話の対比

要旨

(300字以内)

 本研究は中国人日本語学習者と日本人との円滑なコミュニケーションを促進するために、中日両国のテレビのトーク番組の中のほめの談話を文字化したものをデータにして、中日の目上の人に対する「ほめの談話」を「本連鎖」「先行連鎖」「後続連鎖」の3つの観点から論じた。その結果、中国語母語話者は目上の人に「人柄」を一番ほめているのに対して、日本語母語話者は「外見」を一番ほめている。日本語母語話者のほうが中国母語話者より「謙遜」の意識が強くて、「ほめ」に対して、直接的な「受け入れ」より、高慢と見えないようにいろいろなストラテジーを工夫していることが見られる。また、中国語母語話者目上の人は「自慢」という受け手主導の先行連鎖のストラテジーをよく使用していることによって、自ら自分のポジティブ・フェイスを保とうとする欲望が強いと見られる。日本語母語話者目上の人は謙遜の意識が強いので、ほめ手主導の後続連鎖「再ほめ」と受け手主導の後続連鎖「ほめの誘発」をよく起こすことがわかる。

要旨

(1000字以内)

 「ほめ」は円滑な人間関係を保つのに重要な会話ストラテジーである。日本では、「ほめ」という言語行動は対象、応答スタイル、機能、ほめの談話などの観点から分析された。しかし、これらの研究では、同等な人間関係の間のほめが一番研究されている。目上の人に対する「ほめ」に関する研究は数少なく、目上の人に対して、具体的にどのようにほめに関する話題を導入するのか、どのようにほめと返答を交わすのか、また返答の後、どのように話題を展開していくのかに関する談話レベルの分析はまだ行われていないようである。古川(2001)では、目上の人に対するほめがほめの全データの11%を占めているという。従って、日本人が目上の人に対するほめの談話を解明する必要があると思う。また、中日対照研究は李(2006)のほめの待遇レベルの応答スタイルに関する研究しか見当たらない。そこで、本研究は文化や社会、価値観が日本人と異なる中国人日本語学習者と日本人との円滑なコミュニケーションを促進するために、中国語と日本語の目上の人に対するほめの談話の対比を取り上げている。
 本研究は日本と中国の目上の人に対するテレビのトーク番組を録画し、その中のほめの談話を文字化したものをデータにして、中日の目上の人に対する「ほめの談話」を「ほめの本連鎖」「ほめの先行連鎖」「ほめの後続連鎖」の3つの観点からの特徴をまとめて、その異同点を明らかにした。
 まず「ほめの本連鎖」は「ほめの対象」と「ほめの応答スタイル」2つの方面から分析した。「ほめの対象」においては、中国語母語話者は目上の人に「人柄」を一番ほめているのに対して、日本語母語話者は「外見」を一番ほめている。また中日両言語話者共に「外見」「才能」「遂行」に関するほめが多い。
 次に「ほめの先行連鎖」においては、中日両言語話者共に先行連鎖があるほめが多く、「ほめ手主導型」と「受け手主導型」が半数近く出現し、大きな差異は見えない。「ほめ手主導の先行連鎖」は中日両言語話者共に「質問・確認」というストラテジーを多用している。「受け手主導の先行連鎖」においては、中国語母語話者は「自慢」「情報提供」「自己卑下」をよく使用しているのに対して、日本語母語話者は「情報提供」を一番使っている。
 最後に「ほめの後続連鎖」においては、中日両言語話者共に受け手主導の後続連鎖が多数を占めている。「ほめ手主導の後続連鎖」においては、日本語母語話者は「再ほめ」をよく使用しているのに対して、中国語母語話者は「情報要求・確認」を一番使っている。「受け手主導の後続連鎖」においては、中国語側は「情報提供」が一番多く見られる一方、日本語側は「ほめ誘発」がもっとも出現率が高い。

最終更新日 2008年3月○日