修士論文要旨


氏名

寳田 恵利

修了年度

2007年度(2008年1月提出)

修士論文題目

多言語多文化共生日本語教育実習における実習生の外国人児童生徒教育観の変容

要旨

(300字以内)

 本研究は、多言語多文化を尊重する教育の達成を目指し、その実現を担う教員の養成についての検討を目的とし、実践例として多言語多文化日本語教育実習を受講した実習生の外国人児童生徒教育観の変容をPAC分析で明らかにした。その結果、@日本人児童生徒と同一の思考と行動を目指す「同化教育」から、それぞれの違いを認めニーズに合わせて教育を行う「多文化教育」へ、A専門教員による「個別対応」から、受け入れ側の体制作りも含めた「環境作り」へ、B異文化紹介やイベント的交流会等の「知識獲得型国際理解教育」の肯定から、現実の教室内での言語文化を異にする者間の摩擦や誤解を検討する「問題提起型国際理解教育」の肯定へという3点の変容を特徴付けることができた。

要旨

(1000字以内)

 日本の学校の中で育つ外国人児童生徒は、しばしば彼らが持つ言語的文化的多様性を尊重されず、人格形成期に豊かな教育が受けられない状況に置かれている。また、彼らを受け持つ教員達へのサポートは教員免許取得課程においても、入職後の研修においても十分とは言えず、外国人児童生徒に関わる教員たちは不安や負担感を抱えながら指導にあたっている。このような現状に対して、日本語教育の立場から多言語多文化共生を視野に入れた教育実習における実習生の外国人児童生徒教育に対する考え方の変容を報告し、今後の学校教員養成プログラムのデザインを検討することを目的として本研究を行った。
 2007年度の多言語多文化共生日本語教育実習を受講した教育実習生8名に対し、教育実習前後の外国人児童生徒教育に対する意識変容の傾向をPAC分析によって検討した結果、@同化教育から多文化教育へ、A個別対応から環境作りへ、B知識注入型国際理解教育から問題提起型国際理解教育へという3点における意識変容を特徴付けることができた。
 外国人児童生徒に対し、日本人児童生徒と同様に考え行動できることを要求する同化志向にあった実習生達は、教育実習前には外国人児童生徒と日本人児童生徒を区別して語ることに抵抗感を見せていたが、教育実習において参加者一人ひとりの状況や考えを反映させることを求められた結果、教育実習後には少数派の状況を認識し、違いを認めることでニーズに合った教育を行っていく多文化教育の必要性が語られた。
 また、現在多くの学校で行われている取り出し授業などの情報から、教育実習前には外国人児童生徒教育として、専門教員による隔離された空間での個別対応がイメージされていたが、教育実習において多数派である日本人参加者に気づきを促す活動を組んだ際、日本人参加者に外国人参加者を支援しようとする態度が見られた。その結果に肯定感や満足感を得た実習生たちは、外国人児童生徒の問題を本人の努力によって解決しようとするのではなく、教育全体の問題として捉え、受け入れ側の体制作りも含めて考えていく必要があると考えるようになった。
 そして、以上の多文化教育及び環境作りという考え方を形成した実習生は、現在中心的に行われている食文化や衣類などの日常を離れた外国紹介や、交流会などのイベント的国際理解教育を疑問視し始め、文化背景や言語を異にする者同士が存在する現実の教室空間で日々起きている摩擦や誤解に向き合い、その上で共生の方法を探っていくことを重視する姿勢を見せ始めた。

最終更新日 2008年3月11日