修士論文要旨


氏名

洪 玉苓

修了年度

2007年度(2008年1月提出)

修士論文題目

日本語母語話者との遠隔音声会話から観察した文構造の特徴と変化
−台湾人JFL学習者の事例研究−

要旨

(300字以内)

 本研究は、遠隔音声ツールは日本語学習者の産出力に影響を及ぼすかを検証することを目的とする。Skypeという無料オンラインチャットソフトによる日本語母語話者と、計15回連続的に遠隔音声会話を通し、台湾の四年制大學を卒業した1名の日本語学習者(JFL)を対象として、産出した文構造の特徴及び変化を調べた。「単文」と「複文」の基準に従い観察した結果、会話初期に単文による発話は非常に多いことが見られ、中後期段階でもこの特徴は変わらなかった。複文の下位分類の使用状況を観察した結果、副詞節、並列節、補足節、連体修飾節といった順に習得が進んでいることがわかった。各範疇の構成能力が、会話を重なっていくことにつれ、徐々に向上している様子が観察された。

要旨

(1000字以内)

 現在、台湾国内において日本語学習機関で日本語を勉強する学習者数は、英語に次いで2番目に多い。しかし、数少ない交換留学生を除くと、ほとんどは日本語の会話練習ができる日本人の友人もいない学習者である。彼らの日本語学習及び使用の場はもっぱら教室に限られている。このような日本語学習環境に恵まれていない台湾在住の日本語学習者(JFL)が教室外でもネット通信を用いて、会話の練習機会を与えることは有益と考える。そこで、本研究では、上述した動機から、遠隔音声ツールは日本語学習者の産出力に影響を及ぼすかを検証することを目的とした。研究課題は、課題1遠隔音声会話を通し、台湾在住の日本語学習者が産出した文はどのような特徴を持っているか、課題2それらの特徴は会話を継続することによりどのように変化していくか、である。これらを明らかにするために、台湾の四年制大学を卒業した1名の日本語学習者を対象として、日本語母語話者と連続的に遠隔音声会話を行い、産出の特徴と変化の分析を試みた。
 その結果、複文より単文の割合が多いことが観察された。会話中に学習者が伝達したいことを、複文と比べて単文の連続で表す傾向があり、初期における文構成能力は単文レベルであることがわかった。また日本語母語話者との継続的な会話を通じて、学習者の文構成能力が向上すると期待されたが、大きな変化は見られず、初期同様、中・後期も単文でやり取りをする傾向があり、文構成能力は単文レベルにとどまり、複文レベルには至らなかった。複文の産出頻度は遠隔による会話練習により増加することはなかったが、範疇別の正用頻度から見ると、副詞節、並列節、補足節、連体修飾節といった順に習得が進んでいることがわかった。範疇ごとに、会話を重なる中で、正用頻度は徐々に増えたが、誤用頻度も少なくない。このことから、会話することにより、学習者は少しずつ自分の中間言語を処理していくことが分かる。複文の各範疇の誤用頻度は会話の後期段階になっても少なくないが、複文の正用率が増加していた。このことから、会話を継続することを通して、学習者の文構成能力は徐々に単文レベルから複文レベルに移行していることがわかった。
 今回の調査は、2ヶ月にわたって計15回の遠隔音声データを収集した。調査結果の全体から、日本語母語話者との遠隔会話を通して、学習者の文構成能力は大きな向上は見られなかったが、複文の構成能力が徐々に向上している様子が観察された。調査期間中に日本語母語話者との遠隔音声会話を通して文構成能力は複文レベルに到達したとは言い難いが、さらに練習を続けていけば、複文レベルに到達する可能性があると言えよう。今後、海外にいる日本語学習者の産出力の向上ができる方法を考慮する必要がある。

最終更新日 2008年3月11日