修士論文要旨


氏名

黄 怡君

修了年度

2007年度(2008年1月提出)

修士論文題目

子どもの視点から見た「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づく学習支援教室
−M−GTAを援用した子どもの意識変容プロセスの探求−

要旨

(300字以内)

 言語少数派の子どもが直面している母語喪失や教科学習困難の問題を解決するために、「教科・母語・日本語相互育成学習モデル(岡崎1997)」が提案されている。それに基づく学習支援教室に参加し、そこでの学習体験を通じ、学習支援教室に対する位置づけが変容した3名の子どもがいる。本研究では、その変容プロセスを解明することを目的とした。そこで、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで子どものインタビューのデータを分析した。その結果、学習支援教室での中国語の使用は教科・授業内容に対する理解を促進させ、学習意欲を高め、安心感を与えるという役割があり、それが子どもの学習支援教室に対する位置づけを、【勉強を助けてくれる教室】から、【一人ひとりを大切にしてくれる教室】に変容させた最大の要因であることが示唆された。

要旨

(1000字以内)

 近年、日本における言語少数派の子ども(以下「子ども」とする)が急増しているが、子どもの多様な母語、文化的背景、年齢などに対する考慮が不十分な現行の日本語指導と適応指導や学力言語能力の習得困難によって、子どもは母語喪失や教科学習困難など深刻な問題を多く抱えている。これらの問題を解決するために、岡崎(1997)は、「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」を提案しており、それに基づく学習支援が行なわれている。そして、その実践の分析から、母語力の維持発達、日本語力の発達、教科学習の理解、情意・文化面の補助など、といった有効性が挙げられている。また、一般教員、保護者や支援者などの子どもを取り巻く人々の母語活用に対する意識が積極的になり始めていると報告されている。しかしながら、子どもの教育に関わる人々や保護者の意識は支援の実践によって変容したことがわかるものの、子ども自身の意識変容を取り上げる研究は管見の限りまだない。そこで、本研究では、子どもの視点に立ち、子どもの支援クラスにおける母語使用に対する考え方や支援クラスに対する位置づけの変容プロセスを明確に打ち出し、そしてその位置づけが形成される要因を探ることを目的とする。
 本研究は「学習支援教室に対する位置づけの変容プロセス」に焦点を当て、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチでインタビューのデータを分析した。その結果、支援クラスでの中国語の使用は教科・授業内容に対する理解を促進させ、学習意欲を高め、安心感を与えるという役割があり、それが子どもの学習支援教室に対する位置づけを変容させた最大の要因であることが示唆された。中国語の使用をきっかけに、子どもたちは心を開き、支援者に自分の気持ちや感情を吐き出すことによって、支援者との良い関係ができ、落ち着いて学習できる環境が作られていった。また、双方向的のやりとりが頻繁に行なわれ、子どもと支援者はお互いに学び合う仲間となり、学習支援教室は子どもたちが学習を楽しめる場となった。以上の支援クラスでの母語活用をめぐる体験によって、子どもたちの学習支援教室に対する位置づけは、【勉強を助けてくれる教室】というシェルターのようなものから、【一人ひとりを大切にしてくれる教室】という、子どもの持っている背景を大事にしながら、彼らの能力を伸ばしていく教室となったことがわかった。

参考文献:岡崎敏雄(1997)「日本語・母語相互育成学習のねらい」『平成8年度外国人児童生徒指導資料母国語による学習のための教材』茨城県教育庁指導課 1-7.

最終更新日 2008年3月11日