修士論文要旨


氏名

船戸 はるな

修了年度

2007年度(2008年1月提出)

修士論文題目

文字チャットが学習者の日本語会話に及ぼす学習効果
−終助詞「ね」に注目して−

要旨

(300字以内)

 本研究では、日本語母語話者との文字チャットの継続がJFL環境にある日本語学習者の音声会話に学習効果を及ぼすかどうかを、終助詞「ね」に注目して分析を行った。 その結果、調査開始初期には、学習者は「ね」の使用頻度が母語話者に比べ低く、また自分の領域に属する情報について述べる際に「自己確認」または「文意不明」としての「ね」を多用する傾向が見られた。調査後期には、「ね」の使用頻度の増加、また母語話者の多用する「同意要求」「同意表明」の「ね」を多用するようになる変化が見られた。同様の変化は音声チャットにおいても見られたが、その程度は文字チャットよりも小さく、文字チャットで得た効果が音声チャットに現れるまでにはまだ段階があることが推測される。

要旨

(1000字以内)

 本研究は、文字チャットが日本語学習者の音声会話に及ぼす学習効果を明らかにすることを目的として、終助詞「ね」に注目して分析を行った。データには、日本語学習者と日本語母語話者の音声チャットと文字チャットのログを使用した。
 文字チャットは、話しことばの特徴のほとんどを持っているといわれており、また、「文字チャットが口頭コミュニケーションの訓練の前段階として有効」という指摘もある(鈴木2002)。しかし、文字チャットの学習効果について具体的に論じた研究は管見の限り見当たらない。そこで本研究では、話しことばの重要な要素の一つである終助詞の多用、中でも母語話者・学習者ともに多用すると言われる「ね」に注目し、その使用について母語話者との比較や時系列的推移の分析を行った。
 分析の結果、調査開始初期には、母語話者は学習者に比べ「ね」の使用頻度が高く、また「同意要求」「同意表明」といった相手への働きかけの側面の強い「ね」の機能を多用する傾向が見られたのに対し、学習者は「ね」の使用頻度が低く、また自分の領域に属する情報について述べる際に「自己確認」または「文意不明」としての「ね」を多用する傾向が見られた。調査後期には、文字チャットにおいて学習者の「ね」の使用頻度の増加、また「同意要求」「同意表明」の「ね」の増加が見られた。同様の変化は、音声チャットにおいても観察された。ただし、その変化の程度は文字チャットよりも小さいものであった。この原因としては、音声チャットは学習者にかかる負荷が大きく、文字チャットで得た効果が音声チャットに現れるまでにはまだ段階がある可能性が考えられる。またこのことからは、文字チャットの学習者へかかる負荷の低さも表している可能性も考えられる。
 以上のように、文字チャットの学習効果は音声会話にも影響を与えることが観察されたが、今後は、母語話者の「ね」に対する応答の適切さや、「ね」以外の終助詞、またあいづち等の文字チャットの有する話しことばの他の特徴にも注目して多角的に分析を行うことが必要になると考えられる。また、音声チャットを継続した学習者との比較を行い、文字チャットの大きな特徴である、文字を媒体として同期性の高いコミュニケーションを行うことの学習効果を明らかにすることも有益であると考える。

最終更新日 2008年3月11日