修士論文要旨


氏名

遠藤 宏子

修了年度

2007年度(2008年1月提出)

修士論文題目

初級の文の産出を促す絵の適切さについて

要旨

(300字以内)

 初級の文の産出を促す絵の適切さを教材の絵の評価及び文の産出調査で明らかにした。その結果、複文の絵が教示があっても意図する文を的確に産出できない場合があること、単文は複文に比べ産出が難しいことが示された。 一般日本人の単文の「産出文」得点は複文に比べ高く、日本語教師、外国人は低かった。分かりにくさの5要素それぞれ、及び「産出文」の不適切さとの関連を量的、質的に分析した。また、不適切な文を生む絵の特徴を明らかにした。「分かりにくい」絵でも、「産出文」得点が高い絵があり、「分かりにくい」絵ではなくても、「産出文」得点が低い絵があった。余計な情報、情報の不足、写実性が分かりにくさを増すこと、感情表現や擬音などの符号が外国人と共有できるわけではないこと、誇張や事実とは異なる描写が誤解を生むことが示唆された。

要旨

(1000字以内)

 本研究では、初級の文の産出を促す絵の適切さを教材の絵の評価及び文の産出調査を行い明らかにした。研究に先立ち、教材の制作関係者の絵の考え方について調べ、そのあと、教材の描かれ方の実態から、意図しない文を生む絵の要素を明らかにし、研究課題を導いた。調査は一般日本人、日本語教師、外国人を対象に質問紙によった。初級の文の産出を促す絵の適切さを調べるために、絵の評価と文産出、それに評価項目以外の要素を抽出するために自由記述も併用した。
研究課題 1.教科書・教材の絵から、意図する文が的確に産出できるか。
      1-1 複文の場合、意図する文が的確に産出できるか。
      1-2 単文の場合、意図する文が的確に産出できるか。
研究課題2.「よく分からない」「好ましくない」「小さすぎる」「下手」「余計なものが描かれている」 それぞれ、及び「産出文」の不適切さと関連があるか。
研究課題3.不適切な文を産出する絵はどのような特徴をもっているか。
 研究課題1は絵の評定値と産出文の得点から分析した。研究課題1-1については、教示があっても、意図する文が的確にできない場合があるということが分かった。それは、二つの場面、矢印の提示が因果関係の理解につながらなかったことによると推察する。
 研究課題1-2については、単文は複文に比べ的確な文の産出が難しかった。 一般日本人の単文の産出文得点は、複文に比べ高い傾向にあったが、日本語教師、外国人は低かった。これは、外国人、日本語教師は日本語学習経験による文型の意識があり、単文の絵の単純さが文産出に影響を与えたと推察する。
 研究課題2については、絵の「分かりにくさ」それぞれの間、及び「産出文」との間に統計的に有意な関連がある場合があった。「分かりにくさ」の度合いが高いにも拘らず、「産出文」の得点が高い絵があった。一方、「分かりにくさ」の度合いが低いにも拘らず、「産出文」の得点が低い絵があった。また、余計な情報、情報の不足が、適切な文の産出を阻害することも示唆された。
 研究課題 3については、産出文と分かりにさに関する自由記述を質的に分析した。余計な情報、情報の不足が、適切な文の産出を阻害することのみならず、絵の写実性が分かりにくさを増すことが示唆された。感情表現や擬音など漫画で使われる記号の類が外国人には、既有知識とは必ずしも言えないことが示唆された。また、誇張、事実とは異なる描写が誤解を生むことが示唆された。

最終更新日 2008年4月11日