修士論文要旨


氏名

宇津木 奈美子

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

子どもの母語を活用した学習支援における母語話者支援者の意識変容のプロセス

要旨

(300字以内)

 子どもの学習支援における母語活用について否定的な意見が多い中で、実践を通して、当初否定的にとらえていた意識が肯定的に変わった子どもの母語話者支援者がいる。この支援者を対象に意識の変容の要因を探ることを本研究の目的とした。対象者へのインタビューデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(木下2003)で分析したところ、母語話者支援者は支援を通して子どもの母語力を探り、母語母文化背景をいかした教材を作成するなど、探索的に母語支援を行うことで、意識が変容したことが示された。このことは実際の支援のやり取り場面でも行われていたことが確認された。以上のことから、意識変容の要因は「探索的母語支援」であることが示唆された。

要旨

(1000字以内)

 日本における言語少数派の子ども(以下「子ども」とする)が増え続けている。これらの子どもを受け入れている学校現場においては、日常会話はできるが、教科学習には取り組めないという子どもの学習上の困難が指摘されている。このような状況の中で、教科学習の内容理解を促していくために、日本語支援者と母語話者支援者が協働で支援を行いながら、教科学習支援に子どもの母語を積極的に活用していこうとする取り組みが行われている。しかし、母語活用に関して、母語話者支援者から、「二言語使用は子どもの負担になる」「日本にいる以上は日本語習得が最優先」という懐疑的な声が多く聞かれる。このような考えが多い中で、母語を活用した支援に対して、当初、懐疑的だったが、実践を通すことで肯定的に意識が変容し、さらにその有効性を見出していく支援者もいる。そこで、本研究では、意識の変容が見られた三人の支援者を対象にして、子どもの学習支援における母語活用に対する意識変容のプロセスと要因を探ることを目的とした。
 支援に関してのインタビューデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(木下2003)を用いて分析したところ、意識変容の最大の要因は、母語話者支援者が「探索的母語支援」を行ったことであることが示唆された。母語話者支援者は、子どもとやりとりすることで「子どもの母語力を探る」ことをし、「国語に母語・母文化背景を生かす」ことで「オリジナル母語教材作成の工夫」を行い、それを使って母語学習を組み立てて実施したために、学習場面でも母語が充分に機能するという実感を子どもに与えることができた。その結果、当初「母語活用に対する不安」があったが、「母語活用は日本語学習のプラス」になるという意識に変容した。また、支援に携わる人との関係においては、当初は、自分の「役割について不安」だったが、「日本語支援者と連携」し、「子どもの目線になる」ことで、子どもとともに学ぶという関係を築き、「役割の理解」をしていった。さらに、子どもと母語話者支援者の支援のやりとり場面の会話のデータを分析したところ、意識の変容に働きかける「探索的母語支援」が支援場面でも確認された。以上のことから、母語を活用した支援に対しての意識の変容をもたらした最大の要因は、母語話者支援者が「探索的母語支援」を行ったことであることが示唆された。

参考文献
木下康仁(2003)『グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践』弘文堂

最終更新日 2007年3月11日