修士論文要旨


氏名

徳間 望

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

ピア・レスポンスは推敲の着眼点と推敲のリソースをどのように変化させるか
−「書くこと」の指導に関する実践的研究−

要旨

(300字以内)

 本稿では、ピア・レスポンスが主体的な推敲を促す活動になっているかどうかを明らかにすることを目的とし、学習者がどのような観点から(推敲の着眼点)、何を手がかりに(推敲のリソース)推敲を行うかを3ヶ月間追跡した。その結果、@推敲の着眼点には時期的変化が見られない、A推敲の着眼点の多さは直ちには評価と結びつかない、B推敲の着眼点拡大のためには、自発的に意見を求める態度が必要である、C推敲のリソース使用には時期的変化が見られたが、4回目になってようやく推敲のリソースに多様性が出てきたことなどがわかった。よって、ピア・レスポンスにはある程度の習熟期間が必要であり、継続的に行うことによって、学習者の主体的な推敲を徐々に促していく可能性があることが示唆された。

要旨

(1000字以内)

 近年、書く目的や内容を考慮した指導法として教育実践で取り入れられている活動に、ピア・レスポンスがある。本研究では、ピア・レスポンスが主体的な推敲を促す活動になっているかどうかを明らかにすることを目的とし、学習者がどのような観点から(推敲の着眼点)、何を手がかりに(推敲のリソース)推敲を行っているのかを3ヶ月間にわたって追跡した。調査は、都内日本語学校の韓国人学習者(中級中期レベル)7名を対象として行われた。「書く活動」は1週間に1回(90分前後)で、授業は全8回(2週間でワンセット)であった。研究課題1では、学習者の推敲の着眼点にはどのようなものがあり、4回の推敲を通じて変化が見られるか、また、推敲の着眼点と教師評価はどのように関係しているかについて検討した。研究課題2は、学習者の推敲のリソースにはどのようなものがあり、4回の推敲を通じて使用に変化が見られるかを考察した。
 分析方法として、研究課題1は、先行研究をもとに、新たに推敲の着眼点の分類を行った。評価は4つの評価項目を設け、第三者による評価を行った。研究課題2では、録音テープの文字化資料と、ピア・レスポンス時に同じグループであった学習者の初稿から、推敲のリソースを6種類にカテゴリー化した。その結果、5つの点が明らかになった。
 1.学習者の中心的な推敲は「A.文意の変更なし」の「U.意味保存の変更」であった。
 2.推敲の着眼点の現れ方は、4回の推敲を通じてあまり変化が見られなかった。
 3.推敲の着眼点の多さは、直ちに評価と結びつくものではなかった。また、第三者評価では、学習者の学習過程を反映した評価が不可能なことがわかった。
 4.推敲の着眼点が拡大する可能性を広げるためには、自らの文章を分析的に読み、自発的に意見を求める態度が必要である。
 5.推敲のリソース使用には、4回の推敲を通じて変化が見られた。ただし、学習者ははじめからいろいろな推敲のリソースを使用しているわけではなく、4回目になってようやく推敲のリソースに多様性が出てきた。
 以上のことから、学習者が推敲のリソースに気づき、使用するようになるまで、ある程度の習熟期間が必要であることが分かった。また、推敲のリソースは3ヶ月の調査期間で拡大する可能性が見られたことに比べ、推敲の着眼点が拡大することは短時間では困難であることが示唆された。よって、ピア・レスポンスを継続的に行うことによって、学習者の主体的な推敲を徐々に促していく可能性があると言える。

最終更新日 2007年3月11日