修士論文要旨


氏名

申 愛子

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

在日中国系企業の企業内接触場面における関係構築
−日本人従業員の中国人経営者との関係形成プロセスを通して−

要旨

(300字以内)

 本研究では、日本人従業員(Japanese worker 以下JW)の中国人経営者(Chinese executive 以下CE)との関係構築を明らかにするために、中国系企業で働くJW7人にインタビューを行い、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて、「JWのCEへの意味づけによる関係形成プロセス」という視点から分析した。その結果、顧客との結びつきを大切にするという意識が結果図∞(無限大)の図形の交差する部分にあり、その両側に【母語話者意識の強いカテゴリー】と【従業員意識の強いカテゴリー】が生成された。 どのカテゴリーに入るかを決めるのがCEに対する見方である。二つのカテゴリーは違ったプロセスを形成しており、「母語話者意識の強いJWのCEとの関係形成プロセス」では、CEから分岐を起こすことで信頼関係が構築されず、「従業員意識の強いJWのCEとの関係形成プロセス」は信頼関係の構築に失敗する第1段階を持つが、気づきがある場合、第2段階に進むことで信頼関係の構築に成功することが分かった。この結果から、分岐を起こす母語話者意識に対して、まず収斂の意識を持つことが必要であることと、収斂の意識を持った上で、接触場面でのコミュニケーションプロセスの段階性を理解する必要があることなどが示唆された。

要旨

(1000字以内)

 近年の経済活動のグローバル化に伴い、日本語教育界でもビジネスコミュニケーションに関する研究が数少ないながら行われつつある。それらのほとんどは主に言語面に焦点を当てて、外国人従業員と日本人上司を対象にした研究で、日本人従業員に焦点を当てた研究は管見の限り見当たらない。しかし、日本の外資系企業の増加傾向及び外資系企業の日本の雇用問題への貢献から、接触場面で日本人が従業員として働くことが一つの社会問題として捉えられるようになったといえる。そこで、本研究は、在日中国系企業で働く日本人従業員(Japanese worker 以下JW)に焦点を当てて、言語面に留まらず、その内面的な問題即ち接触場面のインターアクションに関する研究として、彼らが中国人経営者(Chinese executive 以下CE)とどのように関係を構築していくのかを連続的視点で明らかにすることを目的とした。
 M-GTAの分析方法に従って、「JWのCEへの意味づけによる関係形成プロセス」を分析テーマに、データに密着してJWの立場から概念を生成した。その結果、顧客との結びつきを大切にするという意識が結果図∞(無限大)の交差する部分にあり、その両側に【母語話者意識の強いカテゴリー】と【従業員意識の強いカテゴリー】が生成された。 どのカテゴリーに入るかを決めるのがCEに対する見方である。二つのカテゴリーは違ったプロセスを形成しており、「母語話者意識の強いJWのCEとの関係形成プロセス」では、<CEとの心的距離>が見られ、CEから分岐を起こすことで信頼関係が構築されなかった。反面、「従業員意識の強いJWのCEとの関係形成プロセス」では<CEへの不満>という信頼関係の構築に失敗する第1段階を持つが、気づきがある場合、第2段階に進むことで<CEへの近づき>といった収斂を起こし、信頼関係の構築に成功することが分かった。この結果から、分岐を起こす母語話者意識に対して、まず収斂の意識を持つことが必要であることと、収斂の意識を持った上で接触場面でのコミュニケーションプロセスの段階性を理解する必要があることなどが示唆された。
 今後は、JWだけでなくその相手であるCEの立場に立ってコミュニケーションプロセスを明らかにすることと、今回は日本人のアジア人への意識を念頭に、中国系企業に焦点を当てているが、欧米系企業で働く日本人従業員は、欧米系の上司とどのような関係構築プロセスを形成するのかについての研究も必要である。

最終更新日 2007年3月11日