修士論文要旨


氏名

清水 寿子

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

実習生の多言語多文化共生日本語教育イメージの変容
−比喩生成課題にみる役割の認識に着目して−

要旨

(300字以内)

 共生日本語教育イメージを解明するため、実習生12名が準備初期・準備後期・教壇実習後に生成した比喩を分析し、次のことを示した。@実習生は社会に働きかけ、自らも学ぶ教育として共生日本語教育を認識し「共生理念を広めるために教室活動を調整し、参加者に介入し、支援し、導き、変容を促す」という教師役割を形成した。A実習の進行に伴い、参加者を教師や教室に働きかける存在として捉えるようになった。B参加者の能力や資質を知り、内省を深めることが教師観・参加者観の再構築の原因となっていた。以上の結果から、共生日本語教育イメージの形成や教育観の再構築には自己省察と実践の場を経験することが重要であることが示唆された。

要旨

(1000字以内)

 参入側である非母語話者と受け入れ側である母語話者の共生する社会の構築に当たって、その牽引役となる日本語教師の育成は今後の日本語教育の大きな課題と考えられる。本研究では、共生日本語教育に取り組む実習生はどのような共生日本語教育イメージを構築するのか、また教育実習が実習生の共生日本語教育イメージの精練にどのような効果があるのかを明らかにすることを目的とし、1.共生日本語教育を初めて経験する実習生はどのような共生日本語教育イメージを持つか2.実習の進行に伴い、教師観・参加者観はどのように変容するか3.実習生の参加者観の変容は何によってもたらされるかの3つの研究課題について調査した。データには、あるトピックについての比喩を生成させ、そこから教師の内的世界や認識の在り様を捉えていく比喩生成課題 (秋田 1996)を用いた。課題1では、実習生が生成した〈教師〉〈参加者〉〈教室〉の比喩の分析を行った結果、それぞれ【役割】【機能】といった動的なもの、【特徴】という静的なものに分類された。動的な比喩の分析からは、実習生は共生日本語教育を@社会に働きかけA自らも学ぶという点で、教室内に収まる教育としてではなく社会における教育としての位置づけで認識していることがわかった。また従来の日本語教師の役割は「明るく導き学ばせ世話をする」言語学習の支援者と認識されている(森下2002, 亀川2005)のに対し、共生日本語教師の役割は「共生理念を広めるために、教室活動を調整し、参加者に介入し、支援し、導き、変容を促す」というコーディネーター、ファシリテーターの役割から捉えられていることが明らかになった。課題2では準備初期・準備後期・実習後の時期別の分析により、実習生は当初参加者を受身的な存在と捉えていたが、実習の進行に伴って、教師や教室に働きかける能動的な存在として認識するようになっていたことがわかった。また、実習生8名のうち6名が教壇実習後に学び手中心のイメージを構築したことから、共生日本語教育実習後には学び手中心の教育観を形成する傾向が窺えた。課題3ではインタビューと内省レポートをデータとし、教師中心的教育観を持っていた実習生が学び手中心の教育観に再構築する様子を分析したところ、教壇実習の場が参加者のもつ能力や資質を知るきっかけを与え、実習生の内省を促し、先入観を改める契機となっていたことがわかった。このような共生日本語教育イメージの形成や教育観の再構築が見られたことは、本実習が自己省察を促し自己と他者を肯定的に認める内省モデルに基づいた実習であったことや、理論だけの学習ではなく参加者との密なインタラクションを持つものであったことが重要な要因であると示唆された。

最終更新日 2007年3月11日