修士論文要旨


氏名

劉 娜

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

JFL環境におけるピア・レスポンスの可能性
−中上級中国語母語話者を対象に−

要旨

(300字以内)

 本研究は中国の日本語作文教育にピア・レスポンス活動の導入の可能性を作文プロダクトと学習者の作文学習観の観点から検証することを目的とする。中国の大学3年生36名を対象とし、その作文を教師フィードバックとの比較において、9項目の評価基準によって得点化し、作文学習観に関するアンケートを活動前後に2回実施した。その結果、教師フィードバックとの比較において日本語能力にかかわらず、ピア・レスポンス活動終了後の作文には質的向上が見られた。また、ピア・レスポンスを経験した中国人学習者の学習観の「仲間の作文への寄与」が活動前より有意に多くなったこと、「仲間のコメントへの信頼」が作文プロダクトの評価得点の伸びと相関があることが示唆された。

要旨

(1000字以内)

 本研究は中国の日本語作文教育において広範に採用されている教師添削という指導法に内容指導及び教授効果に関して限界があることから、内容重視で学習者同士のインターアクションを重視するピア・レスポンス活動の導入の可能性を作文プロダクトと学習者の作文学習観の観点から検証することを目的とした。
 研究課題を3つ設けた。1.中国人学習者の作文学習の背景はどのようなものか、2.日本語能力にかかわらずピア・レスポンス活動による作文プロダクトの質的向上が見られるか、3.PR活動によって学習者の作文学習観に変容が見られるかおよびPR活動後の学習者の作文学習観はPRによる作文プロダクトの向上率と関連性があるか。対象者は中上級レベルの大学3年生で日本語を専攻とする36名の学習者である。課題となった作文、7回のうち、1回目と7回目の第一作文に対しては自己推敲、2〜6回目に対してはピア・レスポンス活動を行い、それに基づいた第二作文を書いた。データは、作文学習の背景に関するアンケートと1、7回目に産出された作文(自己推敲作文と第二作文)および活動前後に行った作文学習観のアンケートである。分析方法は、まず、作文学習の背景のアンケートを集計して割合を算出した。また、産出された作文(124)は、9項目の評価基準によって得点化し、各項目の平均評価得点を出した。その際、教師フィードバックと比較するため、別のクラスの35名(同カリキュラム、同レベル)の作文(118)もデータに加えた。さらに、作文学習観のアンケートについて因子分析を行った。
 研究課題1においては、中国人学習者は仲間同士で互いの作文の感想を言い合うような経験がなかった。また、半分以上の学習者が作文を推敲するのが好きだということが分かった。研究課題2においては、教師フィードバックとの比較において、ピア・レスポンス活動は、活動終了後の第一作文の「言語形式面」に、第二作文の「トピックとの整合性」の評価得点の向上に有効に働くことが分かった。また、日本語能力にかかわらず、ピア・レスポンス活動が中国人学習者に効果がある結果が得られた。研究課題3においては、ピア・レスポンスを経験した学習者の学習観の「仲間の作文への寄与」が活動前より有意に多くなった。また、「仲間のコメントへの信頼」が作文プロダクトの評価得点の伸びと相関があることが分かった。
 これらの結果から、中国でピア・レスポンス活動を実施する可能性があること、また、ピア・レスポンス活動が有効に機能するのに学習者同士の信頼関係を構築することが重要であることが示唆された。

最終更新日 2007年3月11日