修士論文要旨


氏名

金 春梅

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

語彙習得におけるアウトプットの効果
−読解活動でoutput課題を与えたときの付随的語彙習得−

要旨

(300字以内)

 本研究では付随的語彙習得におけるアウトプットの効果を検証するのを目的としている。具体的には読解活動の後、アウトプット課題を与える語彙ともう一度インプットを与える語彙を設けて、二種類のテストを用いて、語彙の表記、読み、意味の習得をそれぞれ測定する。中国で日本語を勉強している中国語母語話者(上級日本語学習者)を対象に、読解直後と一週間後の語彙テストの成績を調べた。その結果、直後テストの語の表記の習得、遅延テストの語の読みの習得において、アウトプット課題を与えた語彙の成績がインプットのみ与えた語彙より有意に高かった。語彙別に調べたところ、表記や読みの間違いやすい語彙にアウトプットの効果が大きかった。語の意味の習得にはアウトプットの効果は検証されなかった。

要旨

(1000字以内)

 L1、L2ともに語彙習得は主に内容理解を目的とした読解や聴解などを通して習得されると考えられている(Nagy, Herman & Anderson 1985; Read 2000, Nation 2001)。しかし、このような付随的な語彙習得はいろいろな問題点が存在し、効率が悪いとも指摘されている(Hulstijn 1992; Huckin & Coady1999; Nation 2001など)。付随的語彙習得の効率を高める外的支援にインプット、アウトプットとインターアクションの効果を比較した研究で、一部アウトプットの効果が検証されている(Ellis & He, 1999; 横山2004)が、アウトプットの課題の出し方、語彙のどの側面の習得を促進するかなどの問題が残っている。本研究では、読解活動の後、アウトプット課題を与える語彙ともう一度インプットを与える語彙に分けて、付随的語彙習得におけるアウトプットの効果を検証する。語彙にはいろいろな側面がある(Nation2001)ので、語彙習得を語の形式(表記と読み)、意味の習得、三つの側面に分けて分析する。また、学習者の語彙のいろいろな側面の習得の相関関係を明らかにする。
 中国で日本語を勉強している中国語母語話者(上級日本語学習者)を対象に、実験を実施した。読解直後と一週間後の語彙テストの成績を調べた結果、直後テストの語の表記の習得、遅延テストの語の読みの習得において、アウトプット課題を与えた語彙の成績がインプットのみ与えた語彙より有意に高かった。語彙別に調べたところ、表記や読みの間違いやすい語彙にアウトプットの効果が大きかった。語の意味の習得にはアウトプットの効果は検証されなかった。この結果は、Swain(1995)が主張したインプットの中心的な役割は意味処理であるのに対し、アウトプットは言語形式の産出における正確さに貢献するというのを支持する結果となった。一方、表記と読みの習得に与えた効果は時期による違う可能性があり、また、語彙によって違う可能性があることを指摘できる。
 アウトプット課題を与えた語とそうでない語に分けて、事後、遅延テストでの語の表記・読み・意味の得点の相関を調べたところ、アウトプット課題を与えなかった語においてのみ、遅延テストで表記と読み、表記と意味の得点に相関関係が見られた。この結果は相関関係を明らかに判断できるものにならなかったが、次のようなことが推測できる。学習者は語の表記、読み、意味を一部関連付けながら、語彙を推測したり、学習したりするが、その語彙をしっかりと覚えたときは、関連性が弱まり、語彙の忘却によって、関連性が再度強まることがある。

最終更新日 2007年3月11日