修士論文要旨


氏名

唐沢 麻里

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

日本語教育におけるシャドーイングの有効性
−1名の学習者を対象とした短期実験からの多角的考察−

要旨

(300字以内)

 本研究はシャドーイングの有効性を多角的に考察するものである。1名の学習者を対象に短期実験を行い、聴解力・ワーキングメモリに関わる能力・発音面・学習者意識に対するシャドーイングの影響を検討した。単一事例実験の手法を用いて分析を行った聴解力については、効果が認められなかった。しかし記述統計によりワーキングメモリに関わる能力には向上が見られたことから、シャドーイングが聴解力に対して部分的な効果を持つことが推測された。発音面では練習後に誤用が減少しており、シャドーイングによる発音改善が示唆された。学習者の意識面については質的分析の結果、聴解面や発音面、新規語彙・表現習得、学習動機などにシャドーイングの効果が見出された。

要旨

(1000字以内)

 本研究は第二言語としての日本語習得に、シャドーイングが有効であるのかを明らかにする目的で行われた。従来、通訳訓練法として用いられてきたシャドーイングは、英語教育分野で取り入れられるようになり、その効果を検証する研究もなされてきた。しかし日本語教育へのシャドーイングの導入は始まったばかりで、実践方法や評価法なども確立されておらず、その効果に関する研究も未だ少ない。そこで1名の学習者を対象に短期実験を行い、シャドーイングの有効性を多角的に検討することにした。
 研究課題1では短期間のシャドーイング練習による聴解力への効果を検証した。研究課題2ではシャドーイングとワーキングメモリに関わる能力との関連性を検討した。研究課題3ではシャドーイングによって学習者の発音がどのように変化するのかを調べた。研究課題4では学習者意識に注目し、シャドーイングの効果を学習者がどのようにとらえているのか検討した。研究課題1は単一事例実験の分析枠組みに従った。研究課題2・3は記述統計による分析を行った。研究課題4については質的な分析手法を用いた。
 その結果、短期間のシャドーイングによる聴解力への効果は認められなかった。聴解力に関しては統計的に有意な伸長が見られなかったものの、シャドーイングという処遇を行わなかったベースライン期終了時と比べ、処遇を行った処遇期終了時にワーキングメモリに関わる能力の向上が示された。このことから、シャドーイングが聴解力に対して部分的に効果を持つ可能性が示唆された。発音面についてはシャドーイング練習前と比較して、練習後の音読に誤用の減少が確認された。また学習者の日本語発音に対する母語の影響にも改善が見られた。短期間であってもシャドーイングが学習者の発音改善に貢献することが示唆された。学習者意識に関しては、実験協力者の練習に対する感想から練習当初は多少の困難を感じるが、慣れてくるとシャドーイングを肯定的にとらえる様子が窺えた。5件法による質問紙も含めて考察すると、協力者はシャドーングの効果を聴解面や発音面のみでなく、新規語彙・表現習得や学習動機にも見出していることがわかった。また実験をとおしての協力者の観察から、シャドーイングが学習者のメタ認知ストラテジーを育成する可能性を持つことが示唆された。
 本研究はシャドーイングによる個人内の変化を詳細に検討したものであり、今後は対象者を増やすなどより実証的にその効果を検証する必要があると考える。

最終更新日 2007年3月11日