修士論文要旨


氏名

ナイダン・バヤルマ(NAIDAN Bayarmaa)

修了年度

2006年度(2007年1月提出)

修士論文題目

モンゴル語を母語とする年少学習者の文法知識の形成過程
−動詞と形容詞の活用形を中心に−

要旨

(300字以内)

 文法知識の形成過程の解明に向け、JSL年少学習者を対象に、来日直後から収集した発話データや参与観察の結果、1.動詞と形容詞の活用形は、単純(無標)なものから複雑(有標)なものへと習得されていく。2.文法項目は、最初は定式表現として使用されるが、たくさん使用することでスキーマが形成され。さらに、複雑で新しい活用形は、既知で、一般性の高い語彙をもとに作られる。その際、規則による誤用と語自体が習得されていないための誤用が見られた。この結果は、Tomasello(2000)が主張する、L1子どもの習得プロセスと「用法基盤モデル」Langacker(2000)の概念と近いと見受けられ、今後さらに追及したいと考える。

要旨

(1000字以内)

 日本国内公立小・中・高等学校等に在籍する外国生徒数は年々増加しており、年少者への第二言語としての日本語教育の必要性も重要な問題となってきた。そんな中で、年少者を対象とした日本語の第二言語習得研究はまだ多いとはいえないが、事例報告が圧倒的に多い(小柳2006)。また、今までの日本語のL2習得研究には、認知能力が整ってきた中・高学年の年少者の習得研究が見当たらない。そこで、本研究では、日本の公立中学校に転入した年少学習者を対象に、どのような習得過程を見せるか。さらに、明示的な日本語指導がない中で文法知識がどのように形成されるかを動詞と形容詞の活用形を中心に分析し、解明することが目的である。そのため、研究課題@では、動詞と形容詞の活用形はどのような順序で習得されていくか。研究課題Aでは、文法知識の形成過程に注目し、1) JFL環境からJSL環境への変化の中での形成過程2)さらに新しい活用形の形成過程3)この2つにおいて見られる中間言語発達という3つの小課題を立てて分析した。その結果、@動詞も形容詞も最初は単純(無標)なものが習得され、そのあと、その次の段階の複雑(有標)なものが習得されていく。動詞は順調に習得されていくのに対し、形容詞は習得が遅く、誤用も含んだ変異性が高かった。研究課題A−1)では、初期段階の活用形は、入力データを基に、定式表現として使用されるが、たくさん使用することでスキーマが形成される。A−2)では、a.複雑で新しく産出された活用形は、その前の段階の単純なものが習得された段階ならどんな複雑なものであっても習得されるには問題がない。b.新しい活用形は、一般性の高い、日常広く使用される語彙をもとに、形態素をつけたりする方法で作られる。A−3)では、活用形の中間言語発達には、a.規則から作るために起こした誤用(聞いたい、わすらせない)b.語自体が十分に習得されていなかったり、品詞が区別できなかったための誤用(きれくない、かわかった)などが見られたことから、明示的な指導がないため、学習者自信が規則をボトムアップ的に導き出していることを暗示させていると考えられる。
 このような結果から、Tomasello(2000)が主張する、子どもは周囲との言語接触を通じ、耳にする具体的事例の共通性に基づいてスキーマを取り出し、文法知識を形成するという知見と「用法基盤モデル」(Langacker2000)の「どんな具体的用法にどの程度さらされたのか、また、どのような言語表現を繰り返し聞いたのか、といった実際の場面に基づく言語経験が、私達の文法知識の形成に大きく影響を与える」(早瀬2005:78)という考えとは近いと見受けられ、今後、さらに被験者数を増やし、追求したいと考える。

最終更新日 2007年3月11日