修士論文要旨


氏名

田渕 七海子

修了年度

2005年度(2006年1月提出)

修士論文題目

日本語学習者と母語話者のe-mailを使用した協働的作文活動におけるフィードバック

要旨

(300字以内)

本稿では日本語学習者(NNS)と日本語母語話者支援者(NS)がペアを組み、e-mailを使用して、NSの支援を受けながらNNSが日本語で作文課題を完成させる活動(協働的作文活動と呼ぶ)におけるフィードバック(FB)の実態を探った。コードと指摘箇所の内容の点から量的に見た結果、いくつかのコードを併用し、推敲自体に関わるFBだけではなく、推敲活動をより効果的に進めるようなやりとりが行われていた。質的に見ると、NSのFBは形式・内容の両面で推敲の足場かけとなっており、いい作文を完成させるための交渉や推敲活動をよりよくするためのやりとりを通して、相互に学びあう関係を構築していることが示唆された。

要旨

(1000字以内)

高度情報化時代の言語教育において、日本語母語話者という人的リソース、時空を超えるe-mailという物的または情報サービスリソースの獲得は必要な視点である。それらを活用した作文活動に関しての実践報告も始まっているが、作文へのフィードバック(以下FB)についてその実態を詳細に記述した研究は限られている。そこで本研究は、日本語学習者(以下NNS)と日本語母語話者支援者(以下NS)が1対1のペアを組み、e-mailを使用して、NSの支援を受けながらNNSが日本語で作文課題を完成させる活動(協働的作文活動と呼ぶ)を実施し、新たな作文活動の可能性を探った。研究課題1はNSのFBの実態をコード及び指摘箇所の内容の点から量的に探る、研究課題2はNSのFBの実態を推敲に関わる足場かけと関係構築の点から質的に探るである。

協力者は、台湾の大学で同一の日本語の授業を受講するNNSと日本で日本語教育を専攻しているが正規機関での教師経験のないNSを、無作為に1対1のペアにした37組である。約3ヶ月間、MSWordをe-mailに添付してやりとりを行い、2つの作文課題を完成させた。主たるデータは、初稿から最終稿までの産出作文と各作文へのFBである。分析方法は、研究課題1では先行研究をもとに新たに作成した枠組みを用いて、初稿に対して行われた全てのFBを6つのコードとその下位分類である指摘箇所の内容の観点から分類した。研究課題2では初稿から最終稿までやりとりを見た7つの事例を取り上げて分析した。

研究課題1においては、全体的に見て一つのコードが突出して使用されている傾向は見られず、一つの作文でいくつかのコードが併用して用いられていた。特に、言語形式面についてはほぼ全ての作文で指摘されており、誤りの位置の指摘や直接訂正のコードと形態的要素についてのコメントが多く共起していた。内容への応答コメントは、約4割の作文で見られた。また、活動の進め方の確認や情意的サポートに関するコメントが、9割以上の作文で見られたことから、作文の推敲自体に関わるFBだけではなく、推敲活動をより効果的に進めるようなやりとりが行われていることがわかった。研究課題2では、NSのFBが形式・内容の両面において、推敲の足場かけとなる可能性を持っていることが明らかになった。NSとNNSの関係性の面からは、いい作文を完成させるための交渉を行う関係や推敲活動をよりよくするためのやりとりを通して、支援する人・される人から相互に学びあう仲間へと近づく関係を作る様子が窺え、このことは本活動における協働の可能性を示唆するものである。今後は、さらに実践を積み重ねるとともに、縦断的な研究が必要であると考える。

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 


最終更新日 2006年3月20日