修士論文要旨


氏名

沈 貞美

修了年度

2005年度(2006年1月提出)

修士論文題目

JSL韓国語母語話者の謝罪行為をとりまく異文化適応

要旨

(300字以内)

本研究では、異文化適応という視点から、実際日本社会に接触しているJSL韓国語母語話者の謝罪行為の実態を明らかにすることを目的とし、JSL韓国語母語話者224名を対象に質問紙調査を行った。その結果、JSL韓国語母語話者は日本人の謝り方に対し、「誠実性」においては肯定的な、「真実性」においては否定的なステレオタイプを持っており、このステレオタイプを基に表面的な行動における謝罪行為を変化させていることが明らかになった。そして、謝罪行為に関する適応感の構造は、違和感、謝り方の変化、日本の謝り方習得の必要性、謝罪ことばに関する知識などから成っていることがわかった。さらに、肯定的ステレオタイプを持っている人と謝罪行為における適応感の高い人は、全般的なその異文化での適応感も高いという、異文化適応と謝罪行為との関連が示唆された。

要旨

(1000字以内)

異なる文化背景を持つ人々が接触する際には、誤解や摩擦などが起き、不均衡な人間関係になる可能性が非常に高い。異文化接触が増えつつある現在、人間関係修復のシステムとして捉えられている謝罪行為は異文化接触においては必須不可欠な言語行動であると言えよう。従来の先行研究では、日本の謝罪定型表現の特殊な機能に着目し、他の国との対照研究(主に欧米)を行い、異文化間での謝罪行為における異同の点を指摘してきた。しかし、異なる謝罪行為を行う二つの文化が接触した際の姿、つまり、異文化適応の視点からの謝罪行為についてはあまり研究されてこなかった。本研究では、異文化適応という視点から、実際日本社会に接触しているJSL韓国語母語話者の謝罪行為の実態を把握しようとした。そのために、第一に、JSL韓国語母語話者が日本人の謝り方に対し、どのようなステレオタイプを持っているのか(認知の側面)、第二に、謝り方における変化やその変化の理由は何なのか(行動の側面)、第三に、謝罪行為に関する適応感の構造とその因子間の関連はどうなっているのか(情動の側面)、について明らかにしようと試みた。さらに、異文化適応という視点から明らかになったJSL韓国語母語話者の謝罪行為と日本での適応感との関連に関して検討し考察を行った。

その結果、韓国語の謝罪定型表現とは違って、多用な機能を持っている日本語の謝罪定型表現の使い方に対し、「使いすぎる、適切ではない」と評価し、この評価は、日本人の謝り方は「誠実で礼儀ただしい」という誠実性の面における肯定的ステレオタイプと、「形式的で真心からではない」という真実性の面においての否定的ステレオタイプを作り出していた。

また、60%以上のJSL韓国語母語話者が周りの日本人から自然に影響され、日本人の謝り方への変化を経験していた。ところが、その変化は表面的な行動における変化であって、内面的における変化ではないと言える。さらに、日本社会でも接する相手が韓国人になると韓国人の謝り方へ変化させるなど、異文化に対する柔軟な態度がうかがえた。

謝罪行為に関する適応感の構造は、違和感、謝り方の変化、日本の謝り方習得の必要性、謝罪ことばに関する知識から成っていることがわかった。違和感は謝罪ことばに関する知識と正の相関、日本の謝り方習得の必要性は違和感、謝り方の変化と正の相関があった。また、謝罪行為と日本での適応感との関連に関して考察した結果、日本での「適応感」と日本人の謝り方に対す「真実性」「誠実性」におけるステレオタイプとの間で、また、日本での「適応感」と「謝り方の変化」「日本の謝り方習得の必要性」の間で、正の相関があった。このことから、肯定的ステレオタイプを持っている人と謝罪行為における適応感の高い人は、全般的なその異文化での適応感も高いという、異文化適応と謝罪行為との関連が示唆された。

要旨

(2000字以内)

 

修論発表会要旨

 

 


最終更新日 2006年3月20日