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会話・談話に関する論文

日本語教科書の会話例と日本語母語話者の実際の会話との比較 −音声言語によるrepairの相互作用の観点から−

永山 友子  『日本語教育』 90号 pp.1-12

本研究では、情報交換を超えた相互作用という角度からも、「聞き返し」を含めてrepair方略を再考察する必要性から、日本語学習者を対象にした日本語教科書で紹介されている会話例を、音声言語によるrepairの相互作用の観点から検討した。会話例からは、反復を求める、疑問詞を用いて問いかける、説明を求める、自分で言い換えて確認する、等のrepairが見られた。そしてこれらの例と日本語母語話者の実際の会話とを比較し、「聞き返し」はコミュニケーションストラテジーにとどまらずrepairの相互作用の一部をなすもので、意思疎通の破綻の修復が目的ではあるが、他者発話への介入はなるべく控えようとすることが明らかになったと述べている。また、学習者が意思疎通の混乱に直面したときには、混乱の度合や対象言語の習得レベルに応じる形でこの2つの指向のどちらを先行させるべきかを 判断し、repairの相互作用を方向付けるのが適当ではないかと考察している。


日本語における「断り」 −日本語教科書と実際の会話との比較−

カノックワン・ラオハブラナキット 『日本語教育』 87号 pp.25−39

日本語教科書で扱われている「断り」と、電話での会話を録音した資料による実際の会話の「断り」を、「不可」の表明と断る「理由」の表明の組み合わせで作られる「断りの構造」、断る者と「相手との関係」、依頼・誘いに応じる「時間的・能力的可能性」、断った場合の影響を考える「状況の必要性」 、という四つの観点で比較考察している。その結果、いくつか違いが見られ、とくに実際の会話では「理由のない断り」の際に否定的な態度を少しずつ表にだすというストラテジーを用いていることが多いのに対し、教科書での取り扱いが少ないことがわかり、このような学習者にとって理解しにくい、納得させられる理由がない が断るタイプや断られた相手への気配りの発話を教科書開発においても重要視していく必要性を主張している。


外国人のための日本語会話ストラテジーとその教育

畠 弘己 (1991) 『日本語学』 10月号  vol.10 明治書院 pp.100−117

新しい会話教育において文法、語彙に対して会話のストラテジーの比重が増大しつつあるが、その概要をコミュニカティブ・アプローチの立場から記述している。会話教育には素材教育(文法・語彙)とストラテジー教育の2部門が必要であると考え、伝統的な教授法では文法、語彙の練習を会話教育と錯覚していたと批判し、今後、ストラテジー教育が中心になるべきだとその項目を24挙げている。また広い意味での会話ストラテジー(感謝・依頼等の表現)も23挙げている。そして教室での会話ストラテジーを教育するための実際の技術について@会話教育を独立したプログラムとする。A話しことばと書きことばの違いをよく説明し、話しことばは事後訂正を原則とするため、常に一定の不完全さを含んでいるのが自然であることをよく説明する。B提示→使用→訂正という形で教育する。という3点を挙げている。 項目の具体的な内容もたいへん参考になる。


日本語能力試験とOPIによる運用力分析 −言語知識と運用力との関係を探る−

横山 紀子・木田真理・久保田美子 『日本語教育』 113号,pp.43−52

言語知識と運用力の関連性について調べるために91名を対象に日本語能力試験3級及び2級と口頭能力試験OPIの結果を分析し次のような結果となった。@両テストの間には明らかな相関関係があり、口頭運用力と文法、文字、語彙等の知識とは相互に関連したものであることを確認した。Aただし、OPIと口能試聴解部門との相関関係は相対的に低く、聴解と口頭運用力は理論的には相関が高いと考えられていることから、両テストの妥当性に関連した考察を行っている。BOPI「中級の上」から「上級の中」の学習者は日能試3級ではほぼ60%以上の総合得点をとる。「上級の上」の学習者は3級で70%以上、2級で60%以上の総合得点をとる。「超級」の学習者は2級で80%以上の総合得点をとるなどの予測が可能であることを確認した。C一部のOPIについて発話スクリプトの使用語彙調査を行い、語彙の知識と運用との関係についても考察している。 知識と運用力の相関関係についてとても興味深い研究である。


日本語母語話者の会話管理に関する一考察 −日本語教育の観点から−

李 麗燕 『日本語教育』 87号,pp.12−24

日本語母語話者の日常会話に見られる会話管理として、@発話順番の交替表示(終了表示・譲渡表示・取得表示・受取表示)、A注目行動の要求表示、Bフィードバックの使用、C関連情報の添加、などを挙げ、これらが会話の進行に与える影響を考察している。いずれも絶対必要とは言えないが、会話参加者の間に現れる相互作用性(interaction)と深く関わる行動であり、それぞれの行動が実際に行われる時、微妙な工夫、例えば話者交替の調節の標識、話し手である場合の注目要求行動、求められた情報以上の関連情報の提供などがなされていることがデータから明らかになった。このことから、会話管理に関する知識は会話をうまく行うために不可欠な予備知識であると し、会話教育の指導での重要性を示唆している。


話の特徴記述について −単位としてのmoveと分析の観点−

中田 智子 (1990) 『日本語学』 11月号  vol.9 pp.112−118

筆者は談話の個々の働きの単位を成す発話を多角的に分析し、相互作用の流れを記述する際の基礎作りを目指すために、最も適切と考えられる単位としてmoveに着目し、その特徴を分析し記述するための観点を提案している。1つの話順は最低1つの、場合によっては複数のmove(会話の中で話し手が発するスピーチの最小の機能的な単位(津田1989))を含み、文法的な単位である文と区別している。発話の特徴記述のための観点として@誘発要因A話し手と聞き手、及び両者の関係Bはたらきかけの仕方C命題内容D他の発話との関わり方E発話の「場」を構成する要因、が挙げられさらに下位分類が設けられている。このような角度から記述することにより、発話の姿を細部にわたってより明瞭に描くことができ、相互のはたらきかけの組み立てを観察し、そこに何らかのパターンやそのバリエーションを認めることが可能になるはずだと述べている。


話者交替における発話の重なり −母語場面と接触場面の会話についてー

木暮 律子 (2002) 『日本語科学』 11 pp.115−134

母語場面と接触場面の会話における話者交替について、日本語母語話者と日本語学習者がどのように発話権を取得しているのかをターン冒頭部に見られる発話の重なりから考察したもので、発話権取得時にみられた発話の重なりを、ターンが重なる位置と発話内容から6種類に分類し、その出現傾向と学習者に見られる特徴を日本語能力との関連において分析している。その結果、終了見なし型の不一致、割り込み型の調整系と独立系の3つの重なりで母語話者と学習者に量的な違いが見られた。また、重なりが生じた要因は学習者の日本語能力レベルによって異なり、不一致による重なりは初級学習者では母語話者が発話の調整を行うため、中・上級学習者では倒置や言葉の付加を行うために生じていること、調整系の重なりは、初級学習者では確認や訂正を行うため、中上級学習者では情報の追加や関連する質問を行うために生じていることが明らかになった。


会話分析における「単位」について −「話段」の提案

ポリー・ザトラウスキー (1991) 『日本語学』 10月号 vol.10 pp.79−96

日本語の会話の単位について、従来から提案されている「会話」・「談話」・「発話」などのほかに、「話段」という単位の必要性を勧誘の談話を含む会話例から考察している。話段とは、一般に談話の内部の発話の集合体もしくは一発話が内容上のまとまりをもったもので、相対的に他と区分される部分で、それぞれの参加者の目的となんらかの距離と関連を持つことによって区分されるとし、南(1972)の「談話」の下位に設定すべきと考え ている。会話例の分析からは、「話段」は一人の話者の「実質的な発話」によって作られるものではなく、むしろ二人の参加者の複数の「相づち的な発話」と「実質的な発話」がまとまり作り上げられる単位であるため、日本語の会話の分析に有効な単位だと主張する。さらに話段を特徴付ける面として「メタ言語的発話」「イニシアティブ」「発話交替」等が 挙げられている。


 談話の指導 −バックチャネルからの展開−

伊藤 博子 (1993) 『日本語学』 8月号 vol.12 pp.78−91

話しことばの指導は、相づちやうなづきなどの聞き手中心の談話指導が提唱され実践されてきているが、本研究ではバックチャネルに簡単なコメントや短い発話を加えた形式を指導することにより、発話の量を増やし聞き手よりさらに一歩話し手側に回り得る可能性のある段階について考察している。 「主婦の一週間の談話資料」から【バックチャネル+α】の形式をもった発話を抽出した結果、相づち詞を2・3回繰り返すという、非常に単純で学習者にとっても真似のし易い、しかし 、あくまでも相づちにすぎない例から、話順をとって話の“floor”を保持するところまではいかないまでも、聞き手の域を出て実質的な発話と言える長さと情報量をもった例があることを確認している。また、αの部分を少しずつ変化させることにより談話/会話に積極的に参加して行く方法をいくつか提案し、教師については自分の発話をモニターし、できるだけ違う種類の相づちを使い、【バックチャネル+α】の各種形式を使ってフィードバックを与えることも必要だと述べている。


 UNDERSTANDING SPOKEN INTERACTION: RECENT DEVELOPMENTS IN THE ANALYSIS OF SPOKEN DISCOURSE AND THEIR APPLICATIONS FOR LANGUAGE TEACHING

Susan Thompson (University of Liverpool)  『DISCOURSE ANALYSIS AND LANGUAGE TEACHING』 AUSTRALIAN REVIEW OF APPLIED LINGUISTICS (2000)  Series S Number 16 pp.9-29   

日本語学習者は教室内の基準を超えることを目標とするのではなく、実際の場面で(語用論的に)ふさわしい選択ができる会話能力を必要としているにも拘らず、これまでEFLなどでは会話モデル(規則正しくターンテイキングを完成させるなど。)が不適切であったり、状況や話者の情報が 与えられていないことに問題意識を持ち振り返るとともに、今後どのように進めていくべきかについて検討している。言語の語用論的多面性をどの程度取り上げるべきかなど、難しい問題はあるが、教育的介入により能力(pragmalinguistic competence)が伸びたという成果もでており、ELTではまだ解決しきれない問題として、EFLの内容や教師養成の内容にも積極的に取り入れるべきだと主張する。Michael Swanのタスクに基づいた教授法には 賛成し、今後はそのような教授法を用いる一方、実際の会話がどのようになされているかという分析も重要になっていくと主張している。


Variation in Foreigner Talk Input : The Effects of Task and Proficiency

Ian M . Shortreed ( Tezukayama Gakuin University, Osaka, Japan ) 『Tasks and Language learning Integrating Theory and Practice』 Graham Crookes and Susan  M .Gass     Multilingual Matters LTD (1993) pp.96-122

@NS−NSANS−High NSSBNS-Intermediate NSSCNS−Low NNSの4グループ(1グループに4ペア)がそれぞれ2つのタスク(picture recognition task/picture reconstruction task)をする際のインタラクションを分析した。異なるレベルの学習者によりインプットの複雑さに重要な違いがみられるかという仮説1と、NS−NNSのインタラクション、特にレベルの低いNNSとのやりとりでrepairの頻度が高いという仮説2は支持されたが、タスクと能力の間のインタラクションには特徴がみられず仮説3は支持されなかった。4グループとも、タスク1より複雑なタスク2で、中間言語や修正ストラテジーを多く用いたという結果がでているが、one-wayかtwo-wayかなどというタスクの性質や学習者の目標などの様々な要素が影響を及ぼすため、タスクベースのカリキュラムではその点を考慮する必要があると述べている。またタスクによって何ができるようになるのか、実際どう 生かせるのかという点、さらにタスクを行うために基本的な文法などが必要になる点などに対する批判的な意見について考える必要性も依然としてあることを認めている。

 

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