最終更新日:2001年10月4日
No.1
島本 淳子
カウンセラー応答の指示性と来談者の心的態度との適合性に関する実験的研究
『カウンセリング研究』1996, 29, pp 9-18
1.目的
カウンセラーアプローチを指示性でとらえ、来談者の状態の要因として感情面に焦点を当て、感情的または理性的な状態にある来談者が、指示的、非指示的なカウンセラーの面接を受けた場合、どの程度満足できるのかを第3者評定によって調べること。
2.方法
2-1.実験計画
2×2の要因計画が用いられた。第1の要因は、カウンセラーの指示性(指示的、非指示的)であり、第2の要因は来談者の状態(感情的、理性的)であった。
2-2.被験者
大学生44名が二つの群に22名(指示群:男子7名、女子15名、非指示群:男子6名、女子16名)ずつ割り当てられた。
2-3.材料
- 面接場面を録音したオーディオテープ(場面:友人関 係の悩みについて相談している)
- 上記のオーディオテープの逐語記録(被験者はこの記録を見ながらオーディオテープを聞かされた)
- これまでの経過(来談者が友人関係に関する悩みをもつに至った経過を要約したメモ)
- 来談者の満足度評定用紙(Elliott&Wexler1994の評定項目を参考にした合計15項目を設定し、6件法で評定させた)
2-4.手続き
実験は著者が実験者となり、実験室で2〜8名の小集団で行われた。実験は、実験手続きに関する教示、これまでの経過についての説明、逐語記録を伴ったオーディオテープの聞き取り、来談者満足度評定の順で行われた。
3.結果・考察
理性的な来談者では指示的なカウンセラー応答(カウンセラー個人の意見や指示、来談者が問題解決のための思考を促すような質問)の方が、感情的な来談者では非指示的なカウンセラー応答(感情の反映、言い換え、繰り返し)の方が、課題解決および対人関係の満足度評定の得点が高いことを示した。
つまり、来談者の状態とカウンセラーアプローチとの適合性がその後のカウンセリング過程と結果に大きく影響するということがいえる。
No.2
森 恵理香, 前原 かおる, 大浜 るい子
ターン譲渡の方略としての「繰り返し」と「問い」
『広島大学日本語教育学科紀要』1999, 9,
pp 41-49
1.目的
大浜(1998)で、日本人は「物語と繰り返し」によって談話を展開させ、話し手が聞き手を制御しない話し手主導型であると結論づけらていることを、さらに多くの談話タイプについてい観察し、「物語と繰り返し」が日本人の談話展開を特徴づけるものであると主張できるのかどうを考察すること。
2.方法
2-1.被験者
日本人学生同士10組、留学生同士10組(留学生の日本語能力は上級以上、出身:中国、台湾、タイ、韓国、マレーシア、オランダ、アメリカ)
2-2.手続き
「依頼」「謝罪」「勧誘」「情報提供」「自由会話」の順で連続してロールプレイを実施し、合計100談話(5場面×20組)を録音、文字化した。ロールプレイはいずれの場面も友人同士という設定のもとで行われ、すべての会話はA、B2つの役割のうち、Aの側から始めるよう指示された。
3.結果・考察
ロールプレイの役割Aでは、いかなる場面でも留学生に繰り返しが多く、役割Bでは、「依頼」と「自由会話」では日本人に繰り返し多用者が多く、「勧誘」では留学生に売り返し多用者が多いという傾向が見られた。
さらに、設定場面の対話者間の関係に着目すると、意向の対立がない場面では全体の働きかけ数が多く、意向の対立がある場面では少なかった。また、非対立場面では日本人の方が留学生より繰り返し多用者が多く、対立場面においては日本人より留学生の方が繰り返し多用者が多かった。
つまり、日本人が「繰り返し」を、留学生が「問い」を使用する傾向は、対話者の意向が対立しない関係においてであり、対立する関係では逆になるということである。このことから、それぞれの社会にはそれぞれ好まれる方略があり、場面に応じて働きかけを活発にする時も控える時も、同じ方略の操作によって調整していると言える。
No.3
俣野 夕子
接触場面における話者交代
『阪大日本語研究』1996, 8, pp 87-106
1.目的
話者交代に焦点を当てながら、接触場面のコミュニケーションのありかた、とくに会話における参加者の意識構造と役割分担・会話展開の要因について論じ、日本語教育との関連を考察すること
2.方法
2-1.被験者
20代前半の女性同士の日本人と外国人の2組。各組の両者の関係は初対面か顔見知り程度。
2-2.手続き
1対1の会話をビデオカメラで録画し、文字起こしした。会話は前半と後半に分け、後半部分のみ両者が興味を持っているテーマを与えて、それについて自由に会話させた。
3.結果・考察
- 話者交代はローカル・グローバルの2つの観点から分析や教育を行う必要がある。
- 接触場面の話者交代には接触場面性に対する意識と、それによって生じる役割分担が大きく影響している。
- 他のルールとの重なりが見られる。(話者交代をグローバルな観点から見ると、聞き返しのストラテジーなどと一連となって初めて「会話計画の遂行」を達成する。)
日本語教育への応用
- 素材教育を強化する。特に、終助詞、とりたて助詞、イントネーション、接続表現を初級の段階から取り入れる。
- プランの遂行のための教育を行う。話者交代のストラテジー教育を行うとすれば、聞き返しのストラテジーなどとの関連
を図る必要がある。
- 「参加のルール」に触れる。特に「ゲストーホスト」という関係が生じる可能性とその場合の特殊性を知り、利用する。
No.4
初鹿野 阿れ.
発話ターン交代のテクニック ―相手の発話中に自発的にターンを始める場合―
『東京外国語大学留学生日本語教育センター論集』1998, 24, pp 147-162
1.目的
発話ターン交代のテクニックに注目し、特にターン交代時に次の発話者が自ら決めてターンを始める場合に焦点を当て、そこで怒っている言語現象を明らかにすること
2.方法
2-1.分析対象
発話者が話を続けているとき、その発話に重なって、または、発話が話者の息継ぎなどで区切られた瞬間に、次の話者がターンを取ろうと試みている発話。
2-2.分析資料
テレビの討論番組(約1時間半、司会者1名(男性)、参加者17名(内、女性2名)、テーマ「官僚と日本」)と、インタビュー番組(約1時間半、1対1(共に女性)、話題「ごみ問題」「ゲストの性格」など)を録画し、それを文字化したものを使用した。
3.結果・考察
相手の発話中に自らターンをターンを開始する際に見られるテクニックには、次のようなものが見られた。
- ターン交代として機能するディスコース・マーカーによって始められる。例)「だから」「あ」「いや」など。
- 指示詞などにより、前のターンの発話に言及することによって始められる。例)「それは」「そんなことはない」「今」「おっしゃるとおりですけれども」など。
- 前のターンを発話している人、またはターンの交代に権限のある人(司会者など)の名前または敬称を呼ぶことにで始められる。例)「〜さん」「先生」など。
- 上記のような発話がなされずに、いきなり言いたいことを言うことで始められる。
- あいづちを打つことで、発話権を求めていることを相手に知らせ、ターンを始める。
No.5
西郡 仁朗
外国人と日本人の初対面会話の分析 ―数量的に見た特徴と印象の形成について―
「日本人の談話行動のスクリプト・ストラテジーの研究とマルチメディア教材の試作」
平成7年度〜平成8年度 文部省科学研究費-基盤研究(C)(2)- 研究成果報告書(課題番号07680312)
1.目的
(1)異文化の者同士の日本語によるコミュニケーションの特徴を数量的な面から検討すること
(2)対人印象の主要素と印象形成に影響を及ぼす要因を探ること
2.方法
(1)年上の外国人と年下の日本人との初対面会話を、同様の年齢関係にある日本人同士の会話(5分間)を文字起こししたデータと比較し、発話量や情報を要求する発話の数等を見る
(2)情報統合理論に基づき、会話相手の言語、パラ言語、対人印象に関する評定尺度を求める。
3.結果・考察
(1)日本人同士であっても外国人と日本人の間であっても、また、相手が年上であっても年下であっても、ほぼ同程度の相対頻度で発話がなされるが、相手の情報を引き出すことは外国人の方が積極的に行っている。
(2)初対面時での対人印象形成の主要素は「個人的親しみやすさ」と「社会的望ましさ」であり、日本人が日本語の流暢な外国人と話すときに抱く対人印象は、パラ言語や外見的なものの影響が大きい。
No.6
樋口 斉子
初対面会話での話題の展開
「日本人の談話行動のスクリプト・ストラテジーの研究とマルチメディア教材の試作」
平成7年度〜平成8年度 文部省科学研究費-基盤研究(C)(2)- 研究成果報告書(課題番号07680312)
1.目的
外国人と日本人の会話のストラテジーの違いを探ること
2.方法
2-1.被験者
外国人大学院生と日本人学部生のペア13組と、日本人大学院生のペア7組
2-2.手続き
初対面会話を収録後、文字起こしし、どのような内容を語るか、また、それは時系列的にどのような特徴をもつかを分析する
3.結果・考察
日本人の学生同士の初対面会話では全てのケースにおいて「開始→挨拶→自己紹介」という流れの形式がある。また、自己紹介においては、情報交換の内容がある程度固定されており、形式を崩さず円滑に自己紹介を進めていくために、自己紹介途中での話題展開を回避するストラテジーを持つ。
外国人と日本人の会話では、情報交換の内容は固定化されてなく、形式性も弱い。自己紹介部という部分は認められず、日本人同士の自己紹介のストラテジーとは異なっている。
No.7
三牧 陽子
初対面インターアクションにみる情報交換の対称性と非対称性 ―異学年大学生間の会話の分析―
『日本語の地平線―吉田弥壽夫先生古稀記念論集』1999,
pp 363-376
1.目的
上下関係のある初対面2者間の会話における上下関係と情報交換の関係を検討すること
2.方法
2-1.被験者
日本語母語話者の大学生(1回生〜大学院博士前期過程2回生)40名:女性20名、男性20名。年齢:18〜24歳(男女共に平均年齢は20.6歳)
2-2.データ収集方法
相互に関する情報が皆無である完全な初対面の同性2名を1ペアとして15分間の自由会話場面を実験的に設定し、会話をビデオ録画およびテープ録音した。組み合わせの内訳は異学年20ペア(男性10ペア、女性10ペア)であり、各被験者はそれぞれ1回のみ参加した。会話終了後、フォローアップインタビューを実施した。
2-3.
分析資料
15分間の全会話を文字化した後、大話題および小話題の2段階のレベルに話題の構造を分析した話題リストを作成、次いで、参与者に関して提供された情報について、(1)いずれの参与者に関する情報か(2)どちらの参与者が話題を導入したか(3)導入の形式が質問か否かの3点を、各小話題毎に記録した。
3.結果・考察
小話題のうちほぼ半数は参与者双方が対照的に情報を提供し、半数はどちらか一方のみが情報提供していることが判明した。また、この比率には男女差は認められなかった。
非対照的な情報交換の場合、男性郡においては下位者より上位者の方が話題管理し、なおかつ自己に関して多く話す傾向が確認された。それに対して、女性郡では上位者の方が下位者に多く話す機会を与えるという形で話題管理を行っていることが読み取れた。
No.8
笹川 洋子
異文化間に見られる「丁寧さのルール」の比較 ―九言語比較調査データの再分析から―
『異文化間教育』1994,
8, pp 44-58
1.目的
異文化間における「依頼」「断り」「謝り」の場面の「丁寧さの方略」を比較すること
2.方法
2-1.分析資料
「異文化コミュニケーション研究会―九言語比較調査(1992年)の実証データ」九言語:日本語、韓国語、中国語、タイ語、インドネシア語、ブルガリア語、ポルトガル語、ドイツ語、英語
2-2.手続き
質問紙(空欄のディスコースを完成する記述形式)を用い、ブラウンとレビンソンの「丁寧さの理論」の枠組みによって分析した。
3.結果・考察
-
調査の対象となったどの言語でも、「積極的な丁寧さの方略」と「消極 的な丁寧さの方略」が併用されている。
-
連帯が重視される言語文化圏でも、防御的な丁寧さが優勢になるこ ともあり、個人の自由が尊重される文化圏でも、連帯のための丁寧さが多用されることもある。
-
「依頼」では、言語文化間の差異がはっきりと見出されたが、「断り」 や「謝り」の「丁寧さのルール」の使用はほぼ共通している。
No.9
宇佐美 まゆみ.
ポライトネス理論の展開:ディスコースポライトネスという捉え方
『東京外国語大学日本研究教育年報』1998, pp
まず、Brown & Levinsonの"Politeness theory"の概観をし、それに対する各種の批判の妥当性を検討している。
次に、筆者はBrown & Levinsonの基本的枠組みは支持した上で、"Politeness theory"の限界を補うために、「ディスコースポライトネス」という概念を導入する必要があると主張し、日本語におけるディスコース・ポライトネスに関わる要素として、「スピーチレベルシフト」、「話題導入頻度」、「あいづちの頻度」などを挙げている。
最後に、言語形式の丁寧度の選択に、敬語を有し語用論的制約がある言語と、敬語を有さず話者の自発的ストラテジーの比重が大きい言語における言語使用の「ポライトネス」を、同じ枠組みで比較し、その普遍的特性を追求するためには「ポライトネスの談話理論」が必要であることが論じられている。
No.10
水谷 信子.
「共話」から「対話」へ
『日本語学』1993,4, pp 4-10
「共話」の特徴は、共通の理解を前提とし、いちいち相手の聞く意思を確かめながら話すことである。
【共通の理解を前提とする言語形式の例】
-
「どうも」「どうやら」「ちょっと」「なんとなく」など陳述性の高い語句に対応する文末がほぼ一定していること。
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終助詞の「ね」。「など」「とか」「たりして」などの他のものを暗示するような表現の頻繁な使用。
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「コソアド」系列中の「ア」。
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「こないだ立山に登ってきた」の「〜てくる」という補助動詞。
「対話」形式の持つ特徴を「共話」の特徴と反するものと考えるならば、「対話」は相手との共通の理解を前提とせず、相手の賛同や同感をとくに期待せず、しかも自分の意思や意見を相手に理解させることを目的として話すことである。
英語の社会ではいわば「共話」から「対話」への切り替えが、同じ場所同じ人間関係でも、こまめに行われているのに対し、日本語では、切り替えが環境や人間関係と連動している。
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